おらが村(矢口高雄著/ヤマケイ文庫)
大学で非常勤講師をしている虫好きの知り合いが、フェイスブック上でお勧めしていたこちらの本を購入してみました。
著者の矢口氏は「釣りキチ三平」の著者としても有名な漫画家で、こちらの本の中身も漫画になります。
ストーリーは、東北地方の奥羽山脈の山ふところにある、戸数40戸たらずの小さな村の人たちの暮らしを描いた物語になります。
この小さな村の人たちが季節の移ろいと共に農業に汗水流す様子をはじめ、四季折々の草花や動物たち、地方に生きる人たちの喜びや苦悩などが丁寧に描写されています。
一年のうちの半年以上が雪に覆われている豪雪地帯である『おらが村』。本格的な雪の季節を迎える前のこんな言葉がとても心に沁みました。
「霜に焼けしおれた末枯れはまた来る春に夢をつなぎつつ土に帰するものであろうか。それともわが生命を謳歌した春夏に深謝して伏するものであろうか…。いや迫りくる厳寒に半年にも亘って支配する白色の季にいざ来たれ…と堂々と襟を正して伏礼しているに違いない。〜(中略)〜明日も霜が降りるだろう」
昭和30〜40年頃(今から70年ほど前のこと)を描いたこの漫画に頻繁に出てくるのは“過疎”と“出稼ぎ”という単語。
当時、雪が降り始める頃になると、決まって若者たちは都会へ出稼ぎに出て行ってしまう…と。そうなると村に残っているのは高校生くらいまでの子たちとその親世代から上の年齢の者だけになってしまい、村はすっかり静かになってしまい、若者たちが都会から帰省する年末年始だけは村が活気付く…と。
また、若者が出稼ぎ中に村で火事などがあると、村の控えの消防隊が奮起する訳ですが、体力面でも練習面でも到底現役には敵わず、消火作業にはほとんど役に立たない…と。
私も40万人以上が暮らす神奈川県藤沢市から7,500人ほどの南伊豆町へ約11年前に移住してきましたが、ここも『おらが村』と同じような問題を数多く抱えています。
田舎には田舎の悩みがあり、都会には都会の悩みがあります。
その両方を知る私としては、読んでいて「うんうん」と頷いてばかりの物語でした。
すっかり矢口氏にはまってしまった私は「マタギ」という漫画も続けて購入してしまいました。
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